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武術の先輩の話

自分に「武術」というものを教えてくれた先輩の一人にU田さんがいる。
実際にはU田さんの方が自分よりもほんの一か月ほど遅れて師父のもとへ習いにきたわけだが、U田さんは若い頃から武術に関わっていて、不思議なほど良い武縁に恵まれている。それはU田さんの豪放磊落で真っ直ぐな人柄のお陰もあるだろう。仕事などの関係で40代で再び武術を始めるまでには随分ブランクがあったものの、その武術的な視点や動きの端々に見られるエッセンスは一朝一夕に積み上げられたのとは訳が違う。

U田さんの武術譚の一つを紹介すると、当時師事していたN先生の使いで、ある日本の古武術の老先生のところへ行った時のエピソード。その老先生の家に訪ねてみれば古い民家のような佇まいだったそうで、昔の日本の光景の如く家の扉をガラッとあけて「失礼しまー…」と言いかけたところ「ガツーンッ!」と頭に衝撃が。「なんだ、なんだ!?」と思いながらバタッと倒れると、実は、扉の影にその老先生が隠れていて棒で殴られていたという。まさに黒澤明の映画「七人の侍」さながらの世界である。しかし映画と違って、それだけでは終わらない。再びその老先生のところにお使いに出されるU田さん。家の扉の前に立つと、前回の経験から恐る恐る扉を開け、影に誰もいないことを確認し、ホッとしたところでようやく「失礼しまー…」と言いかけたところ、やはり頭に「ガツーンッ」と衝撃が(笑)。またもや「なんだ!?」と思いながらバタッと倒れるU田さん。果たしてU田さんがいかにして老先生に殴られたのかは、言ってしまうとネタバレになるので読者の想像にお任せするとして、とにもかくにも老先生の家と言うのは至る所に武器が隠してあって、いつどこで老先生に襲われるかわからないという状態であったらしい。
まるで漫画か笑い話のようだが、そう言った経験を経て磨かれた感覚は常人とは一味も二味も違う。まさに戦場の兵士の如くである。

自分の修行時代の情けない話になるが(笑)、そのU田さんの紹介で、ある達人先生の処へお伺いした時の話。練習後に飲み会の席でU田さんがしみじみ言うのには、「先生の脚が凄いよね!足の指の一本一本までが連動して動いている!」との事。その達人先生の練習は畳の上で行われていて、しかもその時は貴重な伝承の陳式太極拳を教えながら打っていらっしゃったので、何ともそこに目の行き届かない自分を情けなく思ったものである。
またある時は、公園にて某剣術の先生の剣技を見せていただいた時のこと。公園の細かい砂利の上で、裸足になった剣術の先生。達人先生の一件が悔やまれてならなかった自分は密かに「これは足をよく見なければ」と思いながら、その剣術の先生が立てた竹の間を走り抜けながら打ち倒していく様をしかと見届けたのであったが、後の飲み会でU田さんが言った一言。
「あの先生の目付が凄いよね!」
その瞬間、(今度は目付けか!)と自分の目はなんとふし穴なのだろうとガックリ肩を落としたのであった。orz
しかしそんな経験をさせて貰ったからこそ今があり、つくづく自分は色んな方々のお陰で成長出来たのだと思う。諸先生方や先輩方が直接経験した、その場の空気が伝わってくるような活き活きとしたエピソードは、そのままに学びを与えてくれる、まさに貴重な宝だ。

少し前に、U田さんと久しぶりに推手を行ったが、とても良い推手だった。U田さんの隙のない構えのままに繰り出される推手。過去や現在の色んな武術のエッセンスが混じっているものの、その奥に感じる柔らかい力強さは、まさしく共に師父に学んだ推手そのものだ。同門で誰との推手が一番かと言われれば、間違いなくU田さんの名前をあげるだろう。同時期に師父の元に集い、笑い合いながらよく一緒に練習していた事を思い出す。自分が門を立ち上げた時も応援してくれる気持ちが色んなところに伝わってきて、本当にこのような先輩がいる事がありがたく、得難い事だと思う。
他にもU田さんの体験談や稽古話は沢山あり、そのいずれもが自分の中で色んな形で息づいている。

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愛知県教室の99回目と99勢

今日で、愛知県の教室である宇童会が100回目を迎える。
つまり愛知県の教室を立ち上げてから、前回ですでに東京-愛知の間を99往復したということだ。

我々にとって「99」は意義深い数字である。
なぜなら我が門の太極拳は99勢。
当然、我々としては100回記念よりも99回でこそお祝いとしたいところだ。

そんなわけで前回は、生徒達の自らの企画として、
99回目の教室にて「生徒たちによる99勢」の表演会が行われたのである。

99回を一度も休まずに通った自分に対して「先生への感謝の気持ちとして」ということで、
弟子を中心に、それぞれの生活の中で時間に都合をつけながら練習を重ねての表演であった。

生徒達による99勢。
本来なら記念に写真に撮っておきたいところであったが、目を離すのがもったいなくてそれは出来なかった。

なにより、自分への感謝の気持ちとしてということで、それぞれが、それぞれの想いで打ってくれた太極拳を、受け止めるのだけでいっぱいいっぱいであった。

始めたばかりの頃は、月一回のペースで、太極拳の「た」の字も知らないような人達が、こんな大勢で99勢を覚える日が来ようとは、正直、想像だにしなかったといってよい。(途中で月に二回になったものの、密度は上がっても覚えるペースが極端に変わるわけではない。)

それが月日を重ねてきた今、一人一人が自分にとってのかけがえのない生徒だ。

99勢は長い。
長いからこそ、それを修めるには幾多の試練や出来事にさらされ、
辞める理由はいくらでも見つかったとしても、学び続けることは本当に難しい。

しかし、長いからこそ同時に、学び終えた時には理解も一段深いところにある。
そして、それぞれの中に、一人一人の太極拳がある。

師父から受け継ぎ、自分もまた練磨して伝えた、師祖父の独特の理論と風格を持った太極拳。
この味わいは、この武術を守り伝えるものにしかわからない。

99は99歳を白寿と言うように、百からーを取ると「白」。
99回で今までの区切りをつけるとともに心をまっさら(白)にして初心に帰り、
100回では新たな気持ちで再びスタートを切ることができる。
なんとも良いリズムだ。

最近の様子としては、半分近くのメンバーが套路を一通り覚えたこともあって、
再び最初からより詳細な説明や解説に入ってからというもの、さらに一段と皆の表情が変わってきた。
段階が進めば進むほど面白い。そう、本当の学びはここからだ。

どんなに遠い道でも、どんなに困難な道であっても、必ず一歩目を踏み出すところから始まる。
歩みの一歩一歩は小さく微々たるものでも、一歩ごとに見える景色があり、聞える音があり、
積み重なればこうして99という数字にもなる。

そして、99から100へ至るのも同じ一歩。

今日もまた2時間後には、愛知県に向けて車を走らせているところだろう。(笑)
プロフィール

Author:宇野 道夫
「内功武術 明鏡拳舎」を主宰。
陳[シ半]嶺(Chen Pan Ling)の流れをくむ
太極拳・形意拳・八卦掌
の三拳を修めている。
縁あって愛知県の江南市。神奈川県の相模原市で後継者の育成にあたっている。

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