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「葉桜 」 ~最初の弟子のこと~

話は、前回のブログ「嬉しい日」に書かれた前日に遡る。

土曜日。宇童会の始まる時間の前には、いつも弟子と一緒に、喫茶店でその日の参加者の確認や、軽いミーティングを行うのだが、その日はいつもと違っていた。

弟子が病院から退院したその足で来てくれたのであった。

一度は消えた肺の癌だったが、今では全身が癌に侵された状態であった。喫茶店に現れた弟子は、ようやく身体を保っている状態で、本人の気力と、太極拳で培った丁寧な体重移動で、ゆっくりと、一歩一歩を踏みしめるように歩いてきた。ほんの数歩の距離を、ギリギリの集中力で支えていたのだ。

本人は今回の教室もせめて短時間の見学だけでもと思って来たわけだったが、すぐにそれすら無理だという事がわかった。どの体勢でいてもすぐに痛みが強くなる。とても短時間すら持ち堪えられそうになかった。

そんな様子を見ながら、店内の空気が少し冷たかったので、車の中は暖かいだろうと場所を移し、話をしがてら宇童会が始まるまでの短時間、プチドライブをしようという事になった。

ドライブと言っても、行き先はいつも朝の自主練習会を行っている公園を見に行こうと思ったのだ。

その自主練習会のスペースには以前、ある日突然、枯葉やゴミの山が置かれるようになってしまった事があった。それを弟子が市に必死でかけあいながら、何人かの有志でそこを掃除して綺麗にし、職員に確認してもらうなどの努力をして守ってきた大切な練習場だったのだ。

だが、駐車場には着いたものの車から下りて歩く体力もなく、車の窓を開けて、そこから吹き込んでくる風を感じながら、練習場のある方を眺めた。

公園の隣には高校があって、道沿いに葉桜が咲いていた。

その姿に、桜の散る儚さよりも、新しく芽生える生命の息吹を感じた。

弟子の命はもう長くない。それが痛いほど伝わってきて、余計に新しい生命が眩しかった。

そして、「嬉しい日」だった次の日曜日。
その時のブログにあえて書いてなかった事。

その日も弟子は、拝師弟子練習の為と、例の2人の生徒を自分に会わせる為に、身体に鞭打って出てきた。

入院中の拝師弟子練習は座学が中心であったが、弟子の最後のお願いという事で今回はお休みとし、2人の生徒が経営している喫茶店に行くまでの時間、初めて出会った北名古屋市の公園を見に行くことにした。

そこで、弟子に套路を幾つか見せる。ここが始まりの場所であった。ここから宇童会が生まれたのだ。

その後、喫茶店の駐車場に着くと、しばらくの間、弟子は目をつぶって身体中の気力を振り絞るべく休む。だが、もう身体にほとんど力は残ってなかった。弟子の腕をとって身体を支えてやりながら店に入り、陶芸の飾ってある一階から、喫茶店スペースの二階へと階段を登る。

もう、2人の前で元気な姿を見せる為に、無理をして頑張らなくても良いのだと、階段を、手を引いて一歩一歩登りながら、心の中で涙が溢れた。

お二人の名前は「正子」さんに「いずみ」さんという。「正」は明鏡に繋がり、「いずみ」は明鏡止水を思わせる。お二人とも明鏡拳舎に何かしらの縁を持って現れたようにも感じた。

その後の事は「嬉しい日」のブログに書いた通りだ。

特に、太極拳をし終えた後の目の見えないいずみさんの明るい笑顔が、本当に心洗われるようであった。

そんな様子を、弟子は嬉しそうに、ホッとしたような表情で眺めていた。

ーーーーーーーーーーーーーーー
平成27年 5月8日
開門弟子・加藤ひとみさんは永遠の眠りについた。

2年以上の闘病、痛みと苦しみからようやく解放されたのだ。弟子にとって生きるという事は、常に痛みや苦しみを伴うものであった。それでも弟子は生きる道を選び、最期の最後まで戦った。我が門の「今出来ることを丁寧に工夫しながら行いながら、少しでもいいから前進すること」を真摯に守り抜きながら。

途中で気付いた事。それは「お疲れ様、よく戦ったね。」そう言ってあげられるのは、痛みがなくなるのは、もはや死を迎えた時しかなかったのだ。

初めて出会った公園を見ながら、

「死ぬのは怖くない。死んでしまえば、痛みも気にせずに自由に練習出来るから」

そう呟いていた弟子であった。

いつだって工夫し、ベッドに横たわりながらでも練習をしていた弟子。危篤状態になる前日までそれは変わる事はなかったと、ご家族がその様子を伝えてくれた。

いつか治った日の為に、いつか元気になった時の為に、その功夫が活きるような内容を二人で模索し、闘病の間も積み重ねてきた。ほんの少しでもこの武術を磨く為に。前に進む為に。

この未熟な師匠の元、共に真摯に学びあってきた。

今なら「本当によく頑張りましたね。お疲れ様」と言えるのだけれど、弟子が「先生~。今、練習中です!」と笑顔で答える顔が目に浮かぶようで、むしろ「これからは距離も関係なく、いつでも、何度でも套路を見せてあげられますよ」と言ってあげた方が相応しい気がしてしまうのだ。

自然が大好きで、真摯で、本当に優しい心を持った弟子であった。

そんな素晴らしい弟子に出会わせてくれた人生に。
そして、自分に生き甲斐と教える事の喜びを与えてくれた弟子に、感謝を込めて。

願わくば、あの葉桜の風景のような場所で、風に花びらが舞う中、弟子が伸び伸びと自由に、私達の武術を練ってますように。
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プロフィール

Author:宇野 道夫
「内功武術 明鏡拳舎」を主宰。
陳[シ半]嶺(Chen Pan Ling)の流れをくむ
太極拳・形意拳・八卦掌
の三拳を修めている。
縁あって愛知県の江南市。神奈川県の相模原市で後継者の育成にあたっている。

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